衛星画像、レーダー・ライダー観測、氷床コア、フィールドサンプル——極域科学は観測量に対して人手の解析が追いつかない分野です。 機械学習・統計モデリングを「観測の代わり」ではなく「観測を読み切るための道具」として使う、5つの研究テーマを紹介します。
南極氷床の質量収支を左右する降雪量は、地上観測点が極端に少なく、 広域を面で捉えるには衛星雲画像の解析が欠かせません。 畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて昭和基地の降雪をもたらす雲パターンを識別する手法を開発し、 国際会議 JSAI2020 では上位論文に選出されました。 その後、半教師あり画像セグメンテーションによる重降雪雲検出や、 南極域における大気の川(Atmospheric River)の衛星画像からの検出にも取り組んでいます。
偏光マイクロパルスライダー(PMPL)は大気中のエアロゾル・雲を鉛直分布で捉える観測機器ですが、 データ量が膨大で「通常と異なる状態」を人手で見つけるのは困難です。 正常データのみで学習する生成モデル f-AnoGAN を用いた異常検知手法を開発し、 南極・昭和基地における高濃度エアロゾルイベントの自動検出に応用しています。 エアロゾル光学的厚さのデータからイベント発生を検出する研究も並行して進めています。
統計数理研究所での経験を出発点に、カルマンフィルターや階層ベイズモデルを軸とした データ同化・時系列解析を続けています。 南極ドームふじ氷床コアの年代決定モデルでは、氷の流動・堆積過程を確率モデルとして扱い、 逐次データ同化で年代の不確実性を定量化しました。 同じ枠組みは、台風の移動経路を確率的に予測するモデルや、 大気トラジェクトリー解析にも応用しています。
衛星観測と地上観測は、それぞれ広域性と精度という異なる強みを持ちますが、 両者を橋渡しするモデルは限られています。 機械学習を用いて衛星・地上の両観測データを結び付け、極域における熱輸送メカニズムの解明 (科研費 基盤研究C, 2020–2024)と、大気中微量物質の輸送モデル構築(現行の基盤研究B, 2024–2028, 研究代表者) に取り組んでいます。将来的な物質輸送予測や環境変動モニタリングへの応用を見据えた研究です。
AIによる解析は、良質な観測データがあって初めて成立します。 近年は雪結晶を自動で撮像する装置を開発し、北海道・明治大学駿河台キャンパスでの冬季観測により、 降雪粒子の形状データを蓄積しています。 PMPLをはじめとするリモートセンシング機器の現地設置・運用も行い、 気象測器を用いた多要素センシングから「観天望気」を再構築し、災害予兆の予測につなげる 共同研究にも参画しています(科研費 基盤研究B, 2026–2029)。