RESEARCH THEMES

AIを、極域科学・地球科学の「読めない量」に向ける。

衛星画像、レーダー・ライダー観測、氷床コア、フィールドサンプル——極域科学は観測量に対して人手の解析が追いつかない分野です。 機械学習・統計モデリングを「観測の代わり」ではなく「観測を読み切るための道具」として使う、5つの研究テーマを紹介します。

THEME 01

雲・降雪パターンのAI検出

南極氷床の質量収支を左右する降雪量は、地上観測点が極端に少なく、 広域を面で捉えるには衛星雲画像の解析が欠かせません。 畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて昭和基地の降雪をもたらす雲パターンを識別する手法を開発し、 国際会議 JSAI2020 では上位論文に選出されました。 その後、半教師あり画像セグメンテーションによる重降雪雲検出や、 南極域における大気の川(Atmospheric River)の衛星画像からの検出にも取り組んでいます。

CNNSemi-Supervised Segmentation NOAA/AVHRRAtmospheric River降雪量推定

関連する研究・成果

  • 2021 Identifying the Snowfall Cloud at Syowa Station, Antarctica via a CNN(Springer, JSAI2020優秀論文)
  • 2023 Heavy Snow Cloud Detection Based on Semi-Supervised Image Segmentation
  • 2022–23 Detection of Atmospheric River by Satellite Cloud Images in the Antarctic
  • 2019 NOAA/AVHRR雲画像を用いた降雪をもたらす雲の検出法および降雪量の推定(ROIS-DS-JOINT)

THEME 02

生成AIによる観測データの異常検知

偏光マイクロパルスライダー(PMPL)は大気中のエアロゾル・雲を鉛直分布で捉える観測機器ですが、 データ量が膨大で「通常と異なる状態」を人手で見つけるのは困難です。 正常データのみで学習する生成モデル f-AnoGAN を用いた異常検知手法を開発し、 南極・昭和基地における高濃度エアロゾルイベントの自動検出に応用しています。 エアロゾル光学的厚さのデータからイベント発生を検出する研究も並行して進めています。

f-AnoGAN生成AI異常検知 PMPLエアロゾル光学的厚さ

関連する研究・成果

  • 2025 生成AIを用いた南極・昭和基地PMPL観測における高濃度エアロゾルイベント検出(気象学会秋季大会)
  • 2025 f-AnoGANによる偏光マイクロパルスライダー観測データの異常検知(人工知能学会全国大会)
  • 2025 Anomaly detection in PMPL observation data using f-AnoGAN(Symposium on Polar Science)
  • 2024 An investigation of detecting aerosol emission events using aerosol optical thickness

THEME 03

データ同化・時系列モデリング

統計数理研究所での経験を出発点に、カルマンフィルターや階層ベイズモデルを軸とした データ同化・時系列解析を続けています。 南極ドームふじ氷床コアの年代決定モデルでは、氷の流動・堆積過程を確率モデルとして扱い、 逐次データ同化で年代の不確実性を定量化しました。 同じ枠組みは、台風の移動経路を確率的に予測するモデルや、 大気トラジェクトリー解析にも応用しています。

カルマンフィルター階層ベイズ 逐次データ同化流跡線解析確率台風モデル

関連する研究・成果

  • 2024 Application of sequential data assimilation method to trajectory analysis(ISDA2024)
  • 2023 A sequential trajectory method with data assimilation
  • 2016 ISM-確率台風モデルの開発(気象学会大会)
  • 2013 カルマンフィルターを用いたドームふじ氷床コア年代決定モデルの開発
  • 2013 A dating method for Dome Fuji Ice Core using Sequential Data Assimilation

THEME 04

データ駆動型 大気物質輸送モデルの構築

衛星観測と地上観測は、それぞれ広域性と精度という異なる強みを持ちますが、 両者を橋渡しするモデルは限られています。 機械学習を用いて衛星・地上の両観測データを結び付け、極域における熱輸送メカニズムの解明 (科研費 基盤研究C, 2020–2024)と、大気中微量物質の輸送モデル構築(現行の基盤研究B, 2024–2028, 研究代表者) に取り組んでいます。将来的な物質輸送予測や環境変動モニタリングへの応用を見据えた研究です。

機械学習物質輸送モデル 熱輸送衛星×地上観測科研費 基盤研究B

関連する研究課題

  • 2024–2028 衛星・地上観測を結ぶデータ駆動型物質輸送モデルの構築(基盤研究B・代表)
  • 2024 極域におけるデータ駆動型大気中微量物質輸送モデルの構築(JpGU)
  • 2020–2024 機械学習を用いた極域における熱輸送メカニズムの解明(基盤研究C・代表)
  • 2021–2022 機械学習による昭和基地からみる大気中微量物質の輸送予測システムの構築

THEME 05

観測機器開発とフィールドワーク

AIによる解析は、良質な観測データがあって初めて成立します。 近年は雪結晶を自動で撮像する装置を開発し、北海道・明治大学駿河台キャンパスでの冬季観測により、 降雪粒子の形状データを蓄積しています。 PMPLをはじめとするリモートセンシング機器の現地設置・運用も行い、 気象測器を用いた多要素センシングから「観天望気」を再構築し、災害予兆の予測につなげる 共同研究にも参画しています(科研費 基盤研究B, 2026–2029)。

雪結晶自動撮像PMPL運用 多要素センシング観天望気災害予兆予測

関連する研究・成果

  • 2026 雪結晶の自動撮像装置の開発および2025–2026冬季観測の初期解析(JpGU-AGU Joint Meeting)
  • 2026 雪結晶画像自動撮影システムの構築と観測事例/報告
  • 2025–2026 南極における降水を雪結晶から探る(ROIS-DS-JOINT)
  • 2026–2029 多要素センシングによる観天望気の再構築と災害予兆予測(基盤研究B)
  • 2022–2025 地上観測と衛星観測による南極氷床上の降雪と表面融解の現状把握(JAXA EORC)

研究業績の詳細

論文・学会発表・科研費等の研究課題を年代順に掲載しています。